目を閉じ思考の海に潜っていく。
深く、深く、もう2度と戻れないくらい深く。。。

私の一人称が「佐祐理」になったのはいつからだろう。
・・・それはたぶん一弥が死んだあの日から。
あの日以来私は人前で自分を佐祐理と呼ぶようになった。
これはきっと自己防衛の一種なのかもしれない。
私が私であるかぎり拭うことの出来ない業を、十字架を背負いながら生きることは私には辛すぎた。
自分を客観視する事によってその罪までも客観的に感じられるかもしれないという幻想の中で私は生きてきた。
しかし、ただ惰性によってのみ生き続けることを私は望まなかった。

「だから佐祐理は手首を切ったんです。」

舞という子がいた。
ただ無限の罪を償い続けるためだけに生きていた私はもう一つの目標を見つけた。
舞と幸せになる・・・
きっと一弥も今までの私の生き方を望んではいないことは解かっていた。
一弥のためじゃない・・・自分の安堵感のためだけに罪を償う。
「そんな虚無な日々はもう終わりにしよう」
そう自分に、舞に、一弥に誓った。

舞は問題児だったがそんな事はどうでも良い些事で、私には舞が必要で、舞も私を必要としてくれた。
しかし、舞は祐一さんと出会ってしまった。
それから何もかもが崩れ始めた。
・・・・・いや、運命だったのかもしれない。
私が舞に出会い、ここまで生き長らえてきた事こそ奇跡。
この3年間は一弥が私にくれた束の間の奇跡だったのかもしれない。

誰かのために生きることでしか自分の存在意義を見出せない。そんな自分を私は嫌いではなかった。
そういう生き方もあっても良いと思うし、もともと私には生に対する執着心という本能的な部分が確かに欠けていた。
あの時とは違う。
私は確かに生きていた・・・・・

だから私は再び手首を切った。

深く、深く潜っていく。
遥か頭上には眩しかったあの日々が。
その光ももう決して届く事はない。
冷たくなった私の瞳から小さな海の雫がこぼれた。

春の柔らかい風は全てを包み、この小さい街にもやがて訪れる。
奇跡は起き、夢は潰え、全てはただ当たり前の様に過ぎていった。
一人の少女と一つの願いは美しくも儚く、この空の中に消え今はもう無い。



END


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